Vol.4 松木果樹園 松木 慎介さん
プロフィール:新型コロナウイルスの影響で観光型果樹園や農園が打撃を受けている。「お客さまにフルーツ狩りを楽しんでもらいたい。そのスタンスはコロナの状況下になっても変わりません。密を避けるなど対策を行なっています」と松木さん。今月は、秋の実りを求めに福岡県みやこ町へ。そこには、心を潤す美しいくだもの畑が広がっていました。
「クイーンニーナ」や写真左・中央の「安芸クイーン」などの赤ぶどうは、昼夜の温度差がある方が赤に色づきやすいというが「カタログに載っているような真っ赤な色にするにはなかなか難しいんです」と松木さん。クイーンニーナは安芸クイーンとかけ合わせてつくった比較的新しい品種で、日本では主に山梨や岡山、長野でつくられている。福岡ではあまりつくられていないそうだが、松木果樹園では5年前から生育をしているのだとか!

もぎたてのおいしさに勝るものなし!

  • 朝8時15分。福岡の北東部にある松木果樹園に訪れると「こっち側でなんぼ梨を採った?」「6カゴ分採った」とおばあちゃんたちの元気な声が聞こえてきた。8月下旬から9月下旬にかけて豊水が完熟を迎えている。全国から注文が入るので、昼からの発送準備やジャムづくりに備えて午前中はもぎりの作業で忙しい。

    松木果樹園は直売もしているが、フルーツ狩りが主体の観光型果樹園だ。9月は梨と巨峰、ピオーネ。10月から11月は梨とりんご、12月からはみかん、1月からはいちごと1年中なにかしらのフルーツ狩りを楽しむことができる。

  • もぎたてのおいしさに勝るものなし!

    今年は新型コロナウイルスの影響で自宅で過ごす人が増え、加工品がよく売れたそうだ。3代目社長である松木 慎介さんは、「毎年、夏から秋にかけてくだものを収穫して冷凍保存するんです。そのくだものを使って、ジャムをつくったり、併設のカフェ『フルーツ工房 えふ』で提供するコンポートやカレーに使用して食品ロスを減らしています」。

  • もぎたてのおいしさに勝るものなし!

    この後カフェに移動して先ほどの梨と、ハウス内で収穫したぶどうのクイーンニーナ、安芸クイーン、マスカットをいただいたが、どれも感嘆の声が出たぐらい甘かった。

    「うちの果樹園は“樹上完熟果実”がコンセプト。完熟したものを商品として売るから、あえて市場出荷をしていないんです。祖父と祖母が若い頃、樹上完熟させたくだものをリヤカーに積んで売りに出かけていたのですが、一番おいしい時期に食べてもらうためにその当時から直売を意識していて、今もその志を大切に受け継いでいます」。

心からの「おいしい」は、相手のハートを動かす

  • 心からの「おいしい」は、相手のハートを動かす

    直売が主体だった松木果樹園が、フルーツ狩りをメインにシフトしていったのは今から16年ほど前。きっかけは、松木さんの高校時代の思い出が根底にあるそうだ。

    それは、10代の夏休みに実家の果樹園を手伝っていた時のこと。その頃の松木さんといえば実家を継ぎたくなくて、あえて工業高校に進学をしていた。学校も部活も休みだったので仕方なく手伝っていたのだが、幾人となく来店したお客さまから「松木さんのとこのくだものは、いつ食べてもおいしいね」と笑顔で声をかけられたそうだ。当時は生産工程のイチ作業を手伝っていただけに過ぎなかった松木さんだが、まるで自分のことを褒められたようにうれしかったという。そして、この出来事が後に大きな転機となる。

    高校卒業後、松木さんが選んだ進路先はなんと農業大学校。飾ることなく自然な形で言葉に出た「おいしい」の一言は、松木さんの人生を180度変えるほどストレートに響いたのである。

  • 心からの「おいしい」は、相手のハートを動かす

    松木さんは「お客さまにはくだものの実がなっている状態を自分の目で見て、カタイとか弾力があるなどの感触を自分の手で確かめてもらいたい。くだものはどうやって成長していくのか、また僕たちがどのようにして愛情を込めて育てているか、案内したスタッフから話を聞いてほしいと思ったんです。店頭で並んでいる商品を見て買うだけでなく、時には実際に畑に入らないとわからないことを体験を通して知ってほしい。楽しんでもらいたいと思ったんです。松木果樹園のこだわりを伝えたくてフルーツ狩りを始めました」。

  • 果樹園の畑の様子は、エントランスのそばにあるカフェの外から一望できる。その景色は下へ上へとなだらかな坂になって大きく広がっている。

    拠点をこの地に移して今年で33年目。それまでは北九州市八幡西区で果樹園を開いていた。もっと広いスペースでくだものを育てたいと未来への目標を掲げて、この地へ移り住んで来た。山を開墾し、果樹園に適した土ではなかったものの、堆肥を何度も何度も入れて土を耕していった。そして今、春はいちごから始まり一年中フルーツに彩られた果樹園へと成長を遂げた。

採れたてのフルーツをカフェでも味わいたい

  • 松木さんにとってフルーツ狩りと切っても切り離せないもの。それが、カフェの存在だ。通年でフルーツパフェを提供することを目標に、同じく果樹園で採れたくだものを使ってケーキやパンケーキなどもつくっている。9月中旬から下旬にかけては、ぶどうのパフェといちぢくのパフェ(※いちぢくのパフェは数量限定)がテーブルを彩る。

    一年の中で一番人気なのは、白桃をまるごと1つ使った桃パフェ。通年7月中旬から8月上旬ぐらいまでの商品だ。冬になれば、いちごのパフェも登場する。松木果樹園のいちごはあまおうだけでなく、紅ほっぺやさがほのか、かおりのの4種類を育てているので、ブランド別の味わいを1つの器で楽しむことができる(生育状況によっては全種類のいちごがパフェに載らないこともあり)。今から冬が待ち遠しい!

  • 採れたてのフルーツをカフェでも味わいたい
  • 採れたてのフルーツをカフェでも味わいたい

    松木果樹園がある福岡県京都(みやこ)郡みやこ町は、北九州市と大分の間にあるエリアだ。自然は豊富にあるけど観光が弱い地域だそうで、松木さんは地元の魅力を知ってほしいという気持ちもあってカフェを開いた。

    「フルーツ狩りをして、カフェでランチやお茶をしてのんびり過ごしたら、その後は近くの山や川で自然を満喫しながら過ごすと楽しいと思うんです。この果樹園から車で7分ほどの距離にある平成筑豊鉄道の油須原(ゆすばる)駅は、明治28年に開業した姿を今も現役のまま残す九州最古の駅舎と言われています。ドラマ『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』のロケ地にもなったフォトジェニックな場所で、一眼カメラを持って訪れる人も多いんですよ」。

  • 採れたてのフルーツをカフェでも味わいたい

    車を走らせ、まだ出かけたことのない場所へ行き、芳しい緑の香りを吸う。清らかな空気に触れると、呼吸が自然と深くなりそうだ。今が旬の完熟フルーツを求めに、みやこ町へ。この場所に行けば、秋も冬も“おいしい”に出逢うことができる。

info:平成筑豊鉄道のレストラン列車「ことこと列車」も7月下旬から運行再開!電車に揺られながら、非日常の時間を過ごそう。

松木果樹園

https://matsuki-kajuen.com/

0930-42-3125
福岡県京都郡みやこ町犀川大坂280-11

【フルーツ狩り】11:00〜16:00(入園受付は15:30まで)
【フルーツ工房えふ】10:00〜19:00 ※11月以降は営業時間の変更あり
【直売所】9:00〜17:00
休/10月末日までは無休。11月以降はHPで確認。