Vol.10 繊細な味覚

 今月で最後の掲載となります。春は別れと新しい出会いの季節。そろそろ桜の蕾がほころび始めますね。春といえば桜。日本人は古くから桜を愛してきました。春は桜、夏は海、秋は紅葉、冬は雪と、それぞれの季節の特徴を楽しめる日本は本当にすばらしい国です。

 日本人は昔から、自然と共生するという感覚を強く持っています。全てのものに精霊が宿るという八百万信仰が民族の基本的な考え方にあり、犬や猫、鳥のような動物だけではなく、花や木、草などの植物も命あるものとして自分たちと対等に据え、それらを大切にしてきました。そんな日本人だからこそ、特徴的な四季を楽しむための工夫をし、さまざまな知恵を伝えながら、その土地の食文化を育んできました。地域や季節によって穫れる農作物も違ってきます。四季折々の食材を気候に合わせて調理し、無駄なく保存、加工してきたため、日本人の味覚はとても繊細だと言われています。

 ところが最近では、日本人の多くに味覚障害が報告されています。大人だけではなく子どもたちにもです。味覚には甘味、酸味、苦味、塩味、旨味の5つの基本味がありますが、約3人に1人の子どもにはそのいずれかを認識できないという異常が見られるそうです。繊細と言われていた和食の国の子どもたちの3割に味覚障害があるのは、本当に危惧すべきことです。日本食で育った子は日本食を好み、洋食で育った子は洋食を好むと言われています。「三つ子の魂百まで」というように、3歳までに培われた味覚が人の一生の味覚傾向を左右するので、幼いころからの食が非常に大切なのです。

 前回のコラムで書いたような添加物や人工調味料で作られた加工食品ばかりを食べていると、天然の味覚が失われてしまいます。加齢によっても味覚障害が起こると言われていますが、原因の多くは亜鉛不足によるものです。不足を招いているのはやはり食生活の偏りが原因です。ファストフードやでき合いのお弁当などで毎日の食事を済ませていると、微量栄養素である亜鉛はほとんど摂取できません。牡蠣やきなこ、のり、そら豆、ごま、など亜鉛を多く含む食材を取り入れましょう。また、普段から素材の味を生かし、日本の伝統的な製法で作られた調味料で調理されたものを食していると、だんだんと味覚も回復してきますよ。

 『食べることは生きること』食の安全が叫ばれてもうずいぶんと経ちますが、多くの人はいまだに安いものや便利なものに流されてしまっています。人生100年時代を健やかに生きるためにはまずは知ること、「食」の知識が必要です。少しでも皆さまのお役にたてたのなら嬉しいです。10ヵ月間ご愛読いただき、ありがとうございました。


食育プロデューサーの石橋さとこ

プロフィール
食育プロデューサー。一般社団法人The Organic Days 代表理事。“Food・Health・Education”をテーマに、イベントや講演会を多数企画。オーガニックハーブティーなどオーガニック商品のプロデュースも手がけ、子供たちの食を考える「ふくおか食育の会」の代表も務める。またオーガニック食材を日常のものにするために2019年の秋より福岡・天神にて「福岡オーガニックマルシェ」をプロデュース、好評を博す。持続可能な社会を目指す取り組みの1つとして「オーガニック」の普及を地元企業と連携して進めながら、学校給食でもより安心安全な食材を使用できるよう活動を続けている。
https://www.fuk-organic.com/

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