滝悦子のエッセイ「洒洒落落(しゃしゃらくらく)」

必読の「鉄客商売」

本のタイトルは「鉄客商売 ― JR九州大躍進の極意」。
著者の唐池恒二・現JR九州会長が池波正太郎の大ファンで「鬼平犯科帳」も何もかも好きだが読後感が最も爽快なのは「剣客商売」だという。剣客は剣の達人の意味。鉄道会社に勤めているから、鉄道の仕事に通じた者がビジネスについて語るという内容の本になればいいなと思って「鉄客商売」とした、と。
なんとも分りやすい。
これだけのことで、著者は決してフクザツで回りくどくなく極めて単純な性格だと伝わってくるではないか。
私の直感どうり全篇を通じてもの凄く分り易く書いてある。要するに一人の会社員が入社して以来やってきた仕事のアレコレ悲喜こもごもの記録なのである。誰にでも覚えがあるだろうビジネスシーンの再現物語。
本のオビの「困難、挑戦、逆転、そして成功。これこそ九州流 ― 涙と笑いと感動のビジネス書 ― 」が、中味を掛け値なく雄弁に述べている。
ところどころ大笑いしながらあっという間に読み終えた私は、ちょうどその日に会うことになっていた王貞治さんに「コレ、面白いですよっ」と手渡した。
即座にパラパラッと頁をめくった王さんは「お〜っ、逃げずに真正面からぶつかっていく。何事も前向きに考える。学んだことはすぐに実践に生かす。野球と一緒だねコレ全部」とニコニコ顔だ。
「いいこと書いてるネ、唐池さんは柔道やってたから運動神経がいい」
「本と運動神経と関係あります?」
「あるさ、語り口にはスポーツ感覚つまりリズム感が要求されるから。アレッ、この表紙の絵も変わってるネ、緻密だね随分」
実はこの本のもう一つのお楽しみは、今をときめく画家、山口晃の手による表紙画と挿画なのだ。目ざとく着目したとは流石に世界の王だと嬉しくなった。
レコードやCDにジャケ買いがあるなら、本にも表紙買いがあってもいい。そういう意味でもお勧めである。
「熱き思いと健気な気持ちと夢と希望」。著者は、これらをまとめて「気」と呼び、集大成のクルーズトレイン「ななつ星」には「気がぎっしりと詰め込まれている」と説く。
必読の「鉄客商売」である。