滝悦子のエッセイ「洒洒落落(しゃしゃらくらく)」

ありがとうを1日20回。

「えーっ、ピエトロって九州の会社なんですか〜」
素頓狂な声をあげたのは、子どもの頃からピエトロのドレッシングを食べて育ったという東京都渋谷区在住のOL28歳。周りに居た連中も異口同音に「知らなかったぁ〜」と。全国の百貨店で販売しているし、TVCMも全国区で、ローカル色が皆無だからムリもない。
(ところで関東の方々は特に、福岡だろうと鹿児島だろうとまとめてどこでも“九州の〜”というのは止めてくれませんかねぇ。確かにひとつの島ではありますが各県毎にチガウんですから。)
ピエトロは創業35周年を迎え昨年末には東証一部上場したもともとは1980年にオープンしたスパゲティ専門店「洋麺屋ピエトロ」が始まり。伝説のコピーライター仲畑貴志の提案で発刊された「はじまりは一軒のレストラン」(毎日新聞出版)に35年間の物語が凝縮されていて、滅法面白い。
オビは「1ページごとに、成功のヒント。福岡発のピエトロを、全国ブランドにした創業社長村田邦彦が語る失敗と成功」だが、「失敗」をここまでフランクに描写した「社長」は珍しい。上場した社長というのはもっとエラソーにしてもいいのではないかと心配になるほどだ。しかし、だからこそ、なにごとも隠さず語る率直さに読者は惹かれることになる。飲食業のみならずすべての業種の人に参考になります。
現在国内外で年間約2000万本が販売されているドレッシングは、6名で始めた店にお客が「野菜嫌いの子どもが野菜を食べるから、わけてください」と。
ワインの空き瓶をきれいに洗って使ったのが始まり、という話が私は大好きで何度も何度も折あらば披露する。
スタイリッシュな村田社長は万年青年で趣味は、陶芸、書、絵画、ゴルフ、楽器演奏、野菜づくりなど多種多様だ。
また、入社式で毎年必ず話す「感謝について」も気に入った。これは誰にとっても将来にわたる遺産となろう。
「深々と頭を下げて『ありがとうございます』と言うだけでなく、軽く『サンキュー』でもいいから、1日20回、感謝の気持ちを言葉に出してほしい。お客さんに対して言うのは別カウント。例えば朝起きて出勤前に家族が朝食をつくってくれたら『ありがとう』。出社して同僚が仕事を手伝ってくれたら『サンキュー』、取引先のひとがていねいに連絡をくれたら、それにも『ありがとう』。言うチャンスを逃さず、心で思うだけでなく、口に出してほしい。
社会に出ると、それまでの世界とは人間関係が一変します。戸惑うことも多く、そのうち失敗もあるでしょう。それでも『ありがとう』という他者への感謝を忘れなければ、必ず先輩や仲間が助けてくれますし、自分が奢ることもない。『ありがとうを1日20回』自戒も込めて、繰り返しています。」
また、「私は運がいい」とか「楽天的だ」、「チャレンジ精神が好き」など随所に「明るさ」が散りばめられているのが素敵だ。