滝悦子のエッセイ「洒洒落落(しゃしゃらくらく)」

男のポケット

ポケットが気にかかる。
男の一般的なスーツには、ポケットの数が最低9つある。一番多いのは15個、ベストを入れると20ものポケットをつけた機能主義の人もいる。
これらのポケットには物を入れてよいものと、出来るだけ入れないほうがよろしい、いわば飾りポケットという役目のものもあるのは御承知だろう。
胸のポケットがこれに当たる。
これがなければ胸の辺りがのっぺりして核心がなくサマにならない。このような重要な役目を負っているのだから、名刺入れを入れたり、ボールペンを何本も差し込んだりするのは厳禁なのだ。
ビジネスの場だから簡便さも必要、小道具類をひょいと入れるのくらいは大目に見てよと反論されそうだが、今は真夏である。
上衣の胸ポケットにモノをいれるのは大多数の方々の習慣であり、今更キビシク説教しても仕方ないのかもしれないが、上衣に入れていたモノを、単純にシャツのポケットに移動させるのは如何なものか。
収納を目的として作られていない狭くてひ弱な造りの中にモノが入るとキュークツ極まる。
他のシーズンなら上衣の両側のポケットに入れておくはずのものが、ズボンの左右や尻ポケットにいつのまにか納まっているのも格好悪い。プクッとふくれてしまえば、せっかくのシルエットもなにもぶち壊しだ。
スーツは仕事着ではあるが普段着の正装ともいえる。決して作業着ではない。
ポケットの中身には、もっと細かく神経を使っても良いのではあるまいか。
シャレたバッグやトートバッグを持つのも一案なのだが―。