滝悦子のエッセイ「洒洒落落(しゃしゃらくらく)」

てのひらをひらく

体操のコーチから聞いて興味深かった話がある。
二つのタイプの選手がいて、一人は試合前にヘッドホンで好きな音楽を聴いて会場の歓声や拍手をシャットアウト、自分だけの世界を作る。
もう一人は、それをせずに、あるがままの会場の雰囲気のなかに我が身を置いて出番を待つ。正反対のやり方だが、ほぼ半半の割合で存在する。
スポーツドクターと共に検証した結果、いわゆるストレスの対処法としては後者のほうがいいのだという。
外界を遮断して自分だけの世界を作るという行為は、実はそれ自体がものすごいストレス。
それよりも、いまその場にいる自分を丸ごと受け止め、それに慣れる努力をするほうが賢明なのだ。
第一、出番直前まで殻に閉じこもり、いざという時いきなり外に出るとなると、呼吸が浅くなっていて血流も悪くなっている。力が十分に発揮できないのは当たり前だ。
試験や面接の時にもいえることだが、周囲を見回して環境に慣れておく。これが必要なのだとあらためて考えさせられた。
また、このコーチは、
「緊張した時に力を抜くには、意識して手を開いてみる」と教えてくれた。
緊張すると、人は思わず何かにつかまったり手をぎゅっと握り締めたりする。それでよけいに緊張が高まって自律神経のバランスが壊れてしまう。
意識して、手のひらを開くこと。
プラス深呼吸するとリラックスに効果的。
その時に親指に力を入れないことが大切で、何ごとにも疑り深い私であるが、オッ、イマ緊張してる!という時に、十分意識して手のひらを開いてみたら。アラ不思議。なんというか、緊張が指の先から放電して悪玉が去っていくような、そんなイメージが味わえて驚いたものだ。