「だれでも簡単、すぐできる!50℃洗い(著:タカコ・ナカムラ)」という本がベストセラーになっている。
副題が「驚異の調理法とおいしいレシピ」。
食べることにメのない私のところには各方面から問い合わせが相次いでいる。
食材をお湯で洗っていいのか。旨味が流れ出てしまうのではないか。野菜はしおれてしまうでしょうに等々、心配するのはもっともである。
しかし解説によると逆で、お湯で洗うと野菜はシャッキリ、果物は甘みが増す。肉や魚も臭みがとれておいしくなる、と。
何故かというと、野菜は畑で収穫されると、気孔を閉じて水分の蒸発を防ごうとする。が、お湯に浸けると気孔が瞬間的に開き、水分を補給する。だからシャキッとするのだという。
そもそも肉や魚は、店で売られているとき、すでに酸化が始まっている。お湯で洗うと酸化物や余計な脂肪が落ちるのでうまくなるのだ。
「でもね、お湯の温度が熱すぎると茹でるのと同じになるでしょ?温度管理が毎日じゃ大変そう」
日頃から几帳面に献立作りに励む20代専業美人妻から真剣に尋ねられた私は思わず自慢して言った。
「ワタシ、25年前から肉はよぉく洗ってるもんネ」
「えぇ〜そんなに昔から?肉を?」
そうなんです。
当時すでにフードライターだった私は、雑誌の企画「子連れでキャンプ。海辺のバーベキューを愉しむ」という内容に駆り出された。主人公の人気漫画家、うえやまとちサンはまさしく「クッキングパパ」の腕前どうり、すべての食材を段取り良くさばいていき、実にリズミカルで頼もしいことこの上ない。
そしてひときわ大きな声でこう告げたのだ。
「野菜や魚はみなさんよく洗うんですよ。それはよく知ってらっしゃる。でもネ、肉もよぉく洗って下さい」と波打ち際で薄切り豚肉をジャブジャブ洗い始めたのだ。スタッフがスーパーから買ってきた白いトレイ入りのを一枚ずつハガして。
「へぇ〜こんなの初めて見ました」
素頓狂な声で私が訊くと、
「ボクもね、最初びっくりしたんだけど、ボクの師匠のインド人の先生から習ったんですよ。肉はていねいに洗えよってネ」
それからなのだ。私は、この貴重な教えを固く守り、たとえヒキ肉でも、ジャーと一回流し洗いするようになってしまった。キモチいいからフシギ。
とちさん、感謝しています。
とりあえず、メンドーならば、水でもいいからいちど洗ってみたらいかがでしょうか。