滝悦子のエッセイ「洒洒落落(しゃしゃらくらく)」

運を呼ぶコツ

♪♪運がいいとか 悪いとか 人は時々 口(くち)にするけど♪♪
時折ふと口ずさむこのフレーズは、さだまさしの名曲「無縁坂」。30年以上前の曲なのに記憶が鮮やかだ。
私はもともと「運」に関心が深く、「運というものは、実体はないのだから、私は運が良いと思えば運気が向いてくるし、悪いと思い込めばじっさい悪くなる」と教えられて以来、事あるごとにつとめて「私は運の強い女ですばい」と吹聴するようにしている。
おもしろいことに、いつも言っていると本当に運がやってくるから不思議で、やはり人間は気の動物なのだ。
運の話で私の好きなのをひとつ。
友人の父親で麻雀好きがいて、大正生まれの偉丈夫だったが死ぬまで麻雀をしていた。
麻雀は手と頭を使うからボケ防止にもいいと、毎月一回8人の仲間と集まった。
楽友会という麻雀の会は40年間続き、驚くことに全部の勝敗データが残っている。
何事も、マメな人というのは後世の者にとっては有難度いものだ。こんな一見役に立ちそうにないデータが話のネタになるんだから。
会が始まって10年くらいは、その親父さんは「麻雀はツキが8割」と言っていたが、20年経つと変わった。
「麻雀は実力が10割」と言い始めたのだ。
統計がそれを指し示したから。
麻雀のように、平等に同じ土俵で戦っているゲームは、同じギャンブルでも諸条件に左右されることはなく、正確な統計学が生まれる。
するとツキは誰にでも平等に回ることが分ったんだそうだ。周期はさまざまで、半年間ほぼツキっぱなし、なんていう状態もあるが、長いスパンで見ると、全員に均等にツキが回る。
だから10年単位で成績を見ると、均等に回るツキの部分はならされ、上手な順にきちんと勝っているわけだ。
「麻雀はツキが8割」をひっくり返し「麻雀は実力が10割」と言ってのけるということは、突然「地球天動説」を間違いとし「地球地動説」を唱えたコペルニクスのようだ、と息子である友人は笑うのだ。
なんにせよ、「ツキは平等に回ってくる」と発見した親父さんはエライ。
「あの人は運がいい」といわれる人を見ていると、長期的にずっといいし、おそらく偶然ではなく、運を呼ぶコツを持っているのではないか。
運を呼ぶのは心のどのツボなのか。
とにもかくにも念ずる人は強いと考える。
もうしばらくは「運がいい」と思い続けることにしよう。