生の、野菜サラダ信奉者はまだまだ大勢いらっしゃるようで、最近もレタスやトマト、キュウリを大量に食べる人と同席した。
「せっかく冬なんだから、年中出回ってる野菜もどきじゃなくて、寒い時期だからこそ美味しくなるもんとか食べてみたら?」
などとお節介にも口出しをしてみたのは老婆心というものであろうか。相手が20代の美形だったからついつい放っておけなかったのだ。
「えぇ〜!冬の野菜でナマで食べてもいいのって例えばなんですかぁ〜」
「路地もののホウレン草とか」
「ホウレン草ってナマで食べてもいいんですか!湯がくか炒めるかしないと駄目なんじゃないんですかぁ」
ハァ〜世の中はこういう若者もいるのかと驚いて、あらためて思い出した。
私も他人を笑えないのであり、ほうれん草のサラダというのを洒落たレストランのメニューに見つけた時、ものすごく新鮮で、びっくりしたのをよぉく覚えている。23、4年前のことだ。
今では普通だけど当時は珍しかった。
確かに我々団塊の世代以上にとって、ほうれん草は熱を加えて食べるものだと相場は決まっていたから。
美形彼女に問われてレシピを教えることとなり、おもむろに古い料理本を引っ張り出した。
今から35年前にベストセラーになった桐島洋子著「聡明な女は料理がうまい」80年代の料理ブームの先駆けになった本である。タイトルといい内容といい秀逸極まりなく、一部を引用してみよう。
「意外に思う人が多いかもしれないが、ほうれん草は生でも食べられる。私はしばらく貧血に苦しんだ時期があり、鉄分をとるためにほうれん草を盛大に食べていた。どうせのことなら生のままのほうが効率がよかろうと思って研究してみたら、ほうれん草のサラダというのがあって、それがちゃんとおいしいのである。レタスやサラダ菜と同様にただ洗って切ってフレンチドレッシングをかければよいのだが、それがおもしろいことに、なぜかほうれん草だけでは格好がつかない。ベーコンを細かく刻んで焦げる寸前までカラカラに炒めて脂っけが落ちたもの、つまりベーコン・クリスプをサラダボールのほうれん草にまぜ合わせるのが必須条件なのだ。
もう一つ、やはり生で食べるのがおいしいのに、白いマッシュルームがある。切り口がすぐ黒ずむから、スライスしたらただちにレモン汁かドレッシングを振りかけること。
このマッシュルームをほうれん草のサラダに加えてもよい。さわさわととても楽しい歯ざわりだ。」
男にでもすぐに出来そうではないか。