滝悦子のエッセイ「洒洒落落(しゃしゃらくらく)」

線路は続くよどこまでも

正月が、好きだ。
新年をむかえるにあたり、さまざまな約束事をしつらえ、そして続けてきた日本人の知恵は素晴らしいと、毎年毎年思いを新たにする。
特に私は紅白歌合戦が昔から大好きで他人(ひと)から呆(あき)れられるのだが、元外務省主任分析官佐藤優氏によれば、紅白歌合戦は、日本人にとって不可欠の宗教行事だという。
「紅白歌合戦のドンチャン騒ぎでまずカオス(混沌)を、その後、荘厳なゆく年くる年でコスモス(秩序)を作り出す。こうして年始に新しい秩序を作り出し、元気を得る。これは年中行事に埋め込まれた宗教に他ならない」
まさに、然(しか)りと納得するのである。
明ければ決って尋ねられるのは「新年にやりたいことは?」なのだが、私は明快だ。
全線開通した九州新幹線鹿児島ルートがこれほど話題になっているのに私はまだ熊本までしか乗っていない。鹿児島まで乗って行って指宿まで足を伸ばし、「イブタマ」などの名物列車に乗ってみたいと考えている。その立役者、鉄道車両デザインに革命を起したデザイナー、水戸岡鋭治(祝・菊池寛賞受賞)の仕事には20年来ずっと目が離せずにいる。JR九州との密月時代が永遠に続いてほしいと願うのは鉄道ファンばかりではありますまい。
その水戸岡語録で私が共鳴するのは、
「若い時は『美しいものをつくること』がデザインだと思っていた。でも、いつしか『デザインは自分の思いを表現するものではない』ということに気づいた。デザイナーは代行業。利用者の思いを、お金をもらって表現する。利用者に、笑顔と笑いを提供することが、一番必要なんだと感じている」。
この、デザイナーというのは、こと列車のみならず、他のすべての職種に当てはまるのではありますまいか。身を引き締めて記憶していたい。
実は、JR九州&水戸岡は、13年完成を目ざして九州一周の寝台列車を手がけているところだ。
壮大な夢とロマンを乗せた車両が今から楽しみだ。まさに♪♪線路は続くよ、どこまでも♪♪なのだ。