滝悦子のエッセイ「洒洒落落(しゃしゃらくらく)」

香りは3段階に変化する

第39回フレグランス創作発表会の審査員をつとめた。
新作香水のアイデアや芳香度、アピール度などを多角的に集計して完成度を競うというものだ。
いままで私は料理コンテスト、ミスコン、ラーメン大会、大分県大山町で梅干の選抜展などの審査員をしたことはあるが、香水の審査はさすがに初めてで、気分が昂揚した。
「わたし香水はぜんぜん詳しくないけど」
「そこがいいんです。専門家ばかりのなかでタキさん独自の意見がきっとあるはず。それを聴くのが楽しみなんです」
とパヒューマー(調香師)クラブを主催する田中貴子さん。日本で唯一の調香師&香水ショップオーナーで、熊本市で「香水の16区」を経営して30余年が経つ。
エレガント、かつ芯の強い女性であり、
「思えば多感な少女時代、『バラの花びらを食べると、バラの香りのする肌になれる』と聞いて、野に咲くバラの花びらをせっせと食べていました。それからまるで香りに導かれたように、気がつけばある日、南仏グラースのバラ畑の中に立っていました。グラースで本格的に調香の勉強をして調香師(香料を調合して香水をつくる職業)となり…」(著書「香水のレッスン」より)
始まりは、3人めの子供を産んだときに「もし万が一、主人にもしものことがあったら」とかすめた想いから。大好きな香りのお店なら私にもできるかもしれないと考え実行に至った、と。
なんという素敵な生き方。
彼女を慕って入門を願う人たちが増えるのは当然のことだとあらためて納得した。
わたしを含め、普段に香水と縁のない方々にまずはひとつだけ知っていて頂きたいことはといえば「香りは3段階に変化する」。

  • トップノート:つけてから5〜10分の間ぐらいに感じる香りで「先立ち」ともいう。
  • ミドルノート:トップノートの後30分〜2時間の間に感じ「中立ち」「ハートノート」ともいう。
  • ベースノート:つけてから2時間以降、やさしくゆったりと香るのが特徴。
大切なことは、香水を選ぶときは、つけてからすぐに決めずに、必ずミドルノートに香りが変わってから決める。調香師は、ミドルノートをイメージしてその香水をつくるという。
「つけたときに、トップノートでは香りがツンとしているので、この段階では人に会わないようにしたほうが無難。時間に余裕をもって、家を出る30分ほど前につけるのがおすすめです」
また、多くの方々が「私に似合う香りを探して」と言って来店する由。
確かに香りの好き嫌いはわかっていても、どれが似合うのかはわからない。
信頼できる第三者の意見が必要な由縁だ。
ちなみに今、わたしは田中貴子さんオリジナルの「風にのって晩白柚(ばんぺいゆ)」をつけて気に入っています。