滝悦子のエッセイ「洒洒落落(しゃしゃらくらく)」

恋文のススメ

「好きな人がいるんですけどぉ」
真剣な眼差しで相談を受けた。20代の可憐な娘でシゴトもデキルから、日頃から私は目をかけている。こちらも真面目に答えた。
「わたし、あなたが好きよ、と真っ直ぐにその人の眼を見て言ってごらんなさいよ。必ず通じるから」
「えぇ〜そんなこと無理です。メールじゃいけませんかぁ」
う〜ん。こういう困った人は昨今、多いに違いないだろうから、この機会に指南したい。
<上手なラヴレターの書き方>というものをずっと以前に宇野千代先生に習って以来、私はそれを忠実に守り、さらに実践してきた。
その根底にあるのは、「この恋は実ると暗示を与えてごらんなさい。あなたの恋は必ず成就します」という強い信念の啓示であった。
宇野千代流にいえば、まずラヴレターを書くときに「私はあなたが好きです」こういう書き出しで書き始める人は、文章の旨い人なのだ――と。
言葉というものは、一番簡単な、一番分り易い、一番使い馴れた飾り気のないものほど好いものである。「私はあなたがどんなに好きか」を飾り立てて書いてはいけない。
ちょっと聞いただけでは分りにくい形容詞は、決して使ってはならない。
なるべく、主語と動詞だけで分るような、短いセンテンスで表現するラヴレターが最高なのだ。(コレはビジネス上の書簡や企画書にも通じますね――今、気がつきました)
人間というものは誰でも、自分の思った通りの人になるもので、失恋しやしないか、失恋しやしないかと思うと、失恋するのだ。
言葉の暗示は強い。
自分は出来る、そう思い込む。その思い込みの強さはそのまま、端的に自分の芽を伸ばす。
さぁ、あとは行動あるのみ。すべての恋する人たちに捧げたい。