結婚式と披露宴に出て、これほど深い印象は初めてだった。
ひとりの母親のコトバに出会ったからだ。
感銘を受けたからだ。
時は6月初旬、所はハウステンボス。折しも色とりどりの紫陽花が雨に打たれて鮮やかだ。
神父の背後には硝子越しに波静かな大村湾が眺望できる絶好のロケーションのチャペル、ネイティブシンガーが歌うアメイジンググレース、飛び交うバラの花びらシャワーなどがいかにも今どきのウエディング気分を盛り上げる。
ジューンブライドの純白のドレス姿は、通りかかった誰もが祝福したくなる愛らしさだ。
無事にセレモニーが終わり、木陰で三々五々の立ち話となったとき、
「新婦のお父さんは亡くなったんですか、それとも…」
性来の知りたがり屋である私は、新郎の母親に語りかけた。私は新郎側の出席者で新婦とは初対面。母親だけで父親の姿が見えなかったのでつい知りたくなった、その際の微笑を含んだ返事が見事というしかなかった。
「わたしはね、そういうことは知りたくない。そんなことどうでもいいじゃないか、わたしが生んだ息子が選んで連れてきたんだから何を尋ねる必要があるものか、いろいろ聞くのはやめよう……と決めたんです」と。
瞬間、私は恥じました。
なんという毅然とした決意。
母の覚悟、というべきものか。
とかく女親は子に対しベタベタ関渉し過ぎると不評であるのに、珍しすぎる格好良さ。
しかも言うばかりではなく、二人の母親は実に仲良くお喋りを交わしっぱなしで、そこに新郎父親も参入し、三人の輪が実に自然な形に出来上っているではないか。
ほほえましい家族の肖像ここに在り。
そのことを寿ぐと、またしてもその母は、
「そうなんですよ。今日で会うのは二度目なんだけど、まるで昔からの幼馴じみのように話が合うんですよ。ねぇ?」と笑顔で傍らのもう一人の母に同意を求める。
一人は佐世保で生まれ育ち、もう一人は小樽という二人の母の明るい懇談は、必ずや新婚夫婦にも良い連鎖を生むにちがいない。
いや、確信する。
ところで、サッカー日本代表の長谷部誠著「心を整える。」−勝利をたぐり寄せるための56の習慣−がベストセラーになっているが、その中のNo.21 偏見を持たず、まず好きになってみる。あるいは、No.46 変化に対応する。No.48 異文化のメンタリティを取り入れる。などは、このケースに宛てはまるのではないか、と考える次第である。