滝悦子のエッセイ「洒洒落落(しゃしゃらくらく)」

猫を愛する女とは

「やっぱり注意されたとおりになりました。さんざん止められたのに押し切った私が悪かったんですぅ」
と、憂い顔で目を伏せるのは41歳独身OL。
なんでも「猫を飼う女は婚期を逃す」との俗説に従わず飼い続け、婚活にも失敗つづきであるらしい。
「たかが猫ぐらいで落ち込みんしゃんなよ」思わず私が見当違いの励ましをすると、彼女はキッとなって、猛然と猫賛美を始めたのだ。
いわく、猫は犬と違って貴族の精神を持っている。
猫は餌をやるだけでは、なつかない。飼い主の友人や恋人が部屋にやってきても、物陰から窺うように様子を見るか、あるいは堂々と無視する。
仲間と認めた者にだけ心を開く猫の、凛として高潔な精神を人間はもっと学ぶべきだ。
そこいらへんの男なんか猫には適わない。
男よりも猫から学ぶことのほうが多い。
第一猫になつかれれば孤独から癒される。言葉を交わさずとも固い信頼の絆を結べる猫と、言葉を交わすことで誤解し、傷つけあう人間。どっちが良いかといえば答えは明らかではないか。
「もういいんです。私は愛する私のエリザベス(猫の名前)と二人で生きていきますから。そう決めたんです。決めたらサバサバしました」
恐る恐る彼女の表情をうかがったらホントにサバサバしているではないか。だから私も先輩として申し上げた。
「あなたは仕事も人並み以上に出来るし、もう世間の一般常識なんぞに迷わされんでも良か。結婚というフォーマットにとらわれず、気が向いたときにその時好きな男に好きよと言って生きていけばいいよ。もともと男女の愛に永遠性は存在しないんだから。大丈夫よあなたなら出来る」
実は現在、私の周辺には嫁がずに猫と同居している方々が6人いるんですが。しかも皆さん美形に属します。
この事実に直面して、これを単なる偶然と見すごすべきか否か、迷っているところなのだ。
犬と猫の両方を長年飼っている大姉御によれば「猫は散歩させんでも良かけんラクチンやもんね。面倒臭がり屋には向いとる」との御意見であったが。